「広告代理店と事業会社のマーケティングの違いを意識せよ」大手広告マンと外資系メーカーのマーケターによるマーケティング対談(前編)

大手広告マンと外資系メーカーのマーケターによるマーケティング対談

※マイナビ、リクルートなど各社のプロモーションを含みます。
※この記事は有料職業紹介(許可番号:13-ユ-314522)の厚生労働大臣許可を受けている株式会社コレックが制作しています。

マーケティングに携わりたいという人は、新卒でも中途でも非常に多い。
今回は、マーケティングを担当するにあたって、関わる立場でどう違ってくるのかについての対談をご覧いただこう。
大手広告代理店からはyuuu氏、外資系企業のマーケター側からはsym氏に、それぞれご協力いただいた。

外資系メーカーのマーケター、広告代理店の働き方についても詳しく触れていただいた。

広告代理店、事業会社のマーケティングに関心がある方にぜひご覧いただきたい。

前編では、広告代理店と事業会社のマーケティングの違いについて対談していただく。2回にわたってお届けしていく。

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キャリハイプロフィール
キャリハイ@編集部
「史上最高のキャリア」を目指す方に役立つ情報提供を目指しています。外資系、メーカー、金融、メガベンチャー、スタートアップなど、様々なバックグラウンドを有するメンバーが参画しています。

プロフィール

sym

外資系企業でマーケティングに従事。外資系、日系ともにマーケティングの経験がある。
yuuu

新卒から大手広告代理店に勤務。大手広告代理店の赤裸々な様子をtwitterで発信している。また、業務の傍ら、就活支援を行っている。

大手広告マンと外資系企業のマーケターによるマーケティング対談

-本日はお集まりいただきありがとうございます。早速ですが、自己紹介お願いします。

yuuu:東京都内の私立大学を卒業後、新卒で大手広告代理店に入社し、複数の事業部での経験があります。

sym:はじめまして。

大学卒業後、新卒で外資系メーカーのマーケティング部門に就職しました。
その後、日系企業、外資系企業を複数社経験して、現在は外資系企業でマーケティングの担当をしています。
一貫してマスマーケティングに携わっています。

日系企業も含め、すべて世界的に有名な企業に在籍しているので、いわゆる大企業でのマーケティングの経験をもとにお話しいたします。

経験してきた領域は、B to C 領域のマーケティングで、消費財や食べ物、電子機器と幅広いかなと思います。

広告代理店では、クライアントの課題を解決するのに適した部署や人材がマーケティングを担当する

-広告代理店と事業会社のマーケティングの違いについて伺いたいです。組織として、マーケティングはどこの部署が行うのでしょうか。

yuuu:弊社でマーケティングを担当する部署だと、統合ソリューション局があります。
昔はストラテジックプランニング局という名称でした。
便宜上、この統合ソリューション局に所属している人をマーケターと呼ばせていただきます。

広告代理店だと、マーケティングという言葉の範囲が広いのではないかなと思います。

統合ソリューション局に所属するマーケターは一般的に市場分析に基づく戦略を策定します。

一方、全体のコミュニケーションプランや企画もマーケティングの一環だと思いますが、ここに踏み込むのはクリエイティブですね。

また、マーケティングを誰が担当するのかは最初の段階では決まっておりません。

sym:「マーケティングを誰が担当するかは最初の段階では決まっていない」という点について、より具体的に教えてください。

yuuu:弊社の場合は、チームとして、誰が担当したらクライアントにとってのベストソリューションになるのかという考え方をします。

詳しく理解していただけるように、業務の流れを簡単に説明いたします。

クライアントからオリエンがあり、それを受けた営業(ビジネスプロデュース局)がクライアントの課題を把握し、社内に持ち帰ります。

その後、営業がクライアントの抱える課題を解決するのに適役だと思う人を各部署から集めてチームを作り、キックオフミーティングを開きます。

ここで全体の流れを策定した後、営業が全体像を把握しながら、専門分野ごとに分かれて、マーケティングプラン等のアイデアを練っていきます。

基本的には、営業局に紐づいているクリエイティブ局(CRプランニング局)と統合ソリューション局の人に声掛けします。
その中でも、誰をアサインするかは時と場合によって変わる可能性があります。

そして、競合プレゼンに臨んだり、クライアントに提案したりして、競合勝利/Goサインをもらったら実行に移していきます。

つまり、クライアントのマーケティング戦略を考えられるのに適しているのが営業担当であれば、そのまま営業担当が全体戦略を考えます。
しかし、営業担当がマーケティングを考えることができなければ、統合ソリューション局の人間をチームにアサインします。

sym:営業でも、マーケティング戦略を考えるのに長けている人がいるということですね。

yuuu:いますね。
弊社の場合、最終権限者は営業です。そして最終的な責任を負うのも営業です。
クライアントと最もコミュニケーションをとっている営業がどう思うかで意思決定がなされるため、営業がどのように考えるかは大事な点です。

優秀な営業担当者は、どういう人を巻き込んだらクライアントにとってベストなソリューションが出せるのかという嗅覚がしっかりしている人です。

sym:それでは、いわゆるマーケターの人たちは社内で権限があまりないのですか。

yuuu:そういうわけではありません。
弊社の統合ソリューションチームには、広告業界で有名な方々が在籍しています。

そうした業界で有名な方たちが考えるマーケティング戦略は社内外で影響力を発揮するため、弊社内の統合ソリューションチーム側がオーナーシップをもつ場合があります。

先ほども述べたように、「どの部署が」ではなく、「誰が担当したらクライアントに最大限の価値を発揮できるか」という観点で、仕事の役割分担がなされます。

sym:「有名な方」になるには、どうしたらよいのでしょうか。
高い役職にあると有名であるという認識でしょうか。

yuuu:いえ、社内の役職ではありません。
分かりやすいところだと、カンヌをはじめ有名な広告賞をとった人は、社内外で有名になり影響力をもっています。

また、考えた施策が大ヒットし、クライアントの売上を大きく伸ばした人も、社内で一目置かれる存在になり、社内では「有名な人」になります。

sym:一部の有名なマーケターの人を除くと、営業主導でマーケティングが行われるのであれば、マーケティングソリューション部自体、不要なのではないでしょうか。

yuuu:そうした議論はあります。
弊社としても、従来営業と呼ばれていた局が、ビジネスプロデュース局に名前が変わりました。

ただの広告枠の売り買いではなく、クライアントのビジネス全体をサポートしていこうとしています。

つまり、ビジネスの根本からクライアントに対して価値を出そうとすることが、営業に求められてきています。

外資系企業のマーケティング部門は、売上に責任をもつ

yuuu:事業会社の「マーケティング」の仕事は、どのようになっているのでしょうか。

sym:私は複数社に在籍した経験がありますが、マーケティングの手法や、そもそもの「マーケティング」という範囲や、仕事の捉え方が、どこの会社も違うので、一概にはいえないですね。

事業会社のマーケティングの仕事で度々勘違いされるのですが、我々マーケターは、クリエイティブを考えることが仕事ではありません。

ここで言うクリエイティブとは、店舗やドラッグストアで使う販促ツールや、広告で使用する映像やバナーといった広告・コミュニケーションの具体的な内容のことです。

本来の役割として、マーケターは売上に責任を負っています。
極論を言うと、売上さえあがれば、何をしてもよい部署・役割です。
その意味で、自分でクリエイティブを考えても良いとは言えます。

yuuu:確かに、クリエイティブは広告代理店側がやる仕事ですよね。
マーケティング部門の仕事では、何が大事になってくるのでしょうか。

sym:広告代理店のマーケターとの違いで考えると、事業会社のマーケティング部門は、リーダーシップを発揮して担当プロジェクトを推進することだと考えています。

有名なマーケターの方の言葉を一部借りますが、役割としては大きく3つあると考えています。

1点目は、「人の心・行動を動かす」役割です。

人の心や感情を読み解いたうえで、その製品を買ったり、店舗に行ったり等の行動をする「動機」を作ることです。
いわゆる、「4P」(Product, Place, Price, Promotion)を考える役割です。
この役割の中でも、広告・プロモーションの面が取り上げられやすいですが、本来であればすべてを管轄する仕事です。

例えば、マーケティングコミュニケーションを広告代理店と考えていきます。
目的を達成するためにはどんなコミュニケーションが良いか、というところを広告代理店と一緒に考え、正しい方向へ導きます。
時にはどこで販売するのが良いか、内容やコミュニケーションを踏まえて、営業やファイナンスなどの他部署と連携して、決断をしていきます。

2点目は、「リーダー・プロデューサー」の役割です。

マーケターは、社内外問わず、一緒に働く人たちを正しい方向に導かねばなりません。
マーケターは、単体で何かを為すという仕事ではありません。
各領域の専門家の知見を借りながら、目的に向けての道筋を立て、その実行・決断を下します。
広告ならば広告代理店、法務で解決すべき課題があれば法務部門、物流やそのコストに機会点があるならサプライチェーンやファイナンスと連携します。
連携を密にしながら、どの手段が最適化の決断を下します。

また、どの部署に属さないが、実行すべき仕事があった時はマーケターの出番です。
人を取りまとめつつ、目的に向けての戦略を実行するのも、重要な役割です。

3点目は、経営者の役割です。

先ほど売上に責任を負っていると言いましたが、最終的には企業としては利益を出すことが重要です。
ブランドやカテゴリーの経営者として、与えられた予算の効果を最大化して、利益を出さないといけません。

これは短期での責任という意味でもそうですし、長期でも同様です。
どういうことかというと、継続的に売れる仕組みを作る必要があるという事です。
「ブランディング」も長期的に売り上げを上げやすくする仕組みの一つです。
再現性のある体系化された成功の方法を作ることは、経営的側面からのマーケターの役割だと言えます。

yuuu:日系企業のマーケティング部門も、売上に責任を負っているという認識ですか。

sym:私がいた日系企業のマーケティング部門は違いましたね。
世界的な大企業なのですが、マーケターの役割は、クリエイティブを代理店に作らせることでした。
厳密には売上に責任を負っておらず、自分たちの好きな納得できるクリエイティブができるかどうかが一番でしたね。

売上に関して直接の責任を負うのは営業部で、マーケティングはうまくいけば自分たちの手柄、うまくいかなければ市場環境や営業の責任、というようなスタンスでした。
まあクビや降格もありませんしね。

先ほどの3つを満たしたマーケターというのは、外資系の企業の方が多いように思います。

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広告代理店の算出する広告換算は事業会社にとって一定の成果の指標

yuuu:広告代理店の算出する広告換算について伺わせてください。
特定の事業プラン等に予算をもらったとして、定量的に数字を算出した結果、2憶5千万円の広告効果がある、などと算出した数字を広告代理店側から提示することがありますよね。
事業会社側ではその数字について、信憑性も含めてどのように考えていますか。

sym:広告換算という意味では、まずはPRの領域ですよね。
PRの試算は、イベントや媒体への働きかけなどの結果、記事という形で露出したものを成果として数値化したいわけです。

定量的に換算すると、幾らの広告出稿と同等ですと出るのですが、本当にそれが金額通りの価値があるのかは、わからないですね。
ただ、自分たちの成功/失敗の指標として、定量化するという事で、一定の効果を測定しています。

あとは、SNSやインフルエンサーなどの露出効果についても広告換算は試みられています。
しかし、元々が広告媒体ではないので、なかなか金額という形での広告換算は難しい、苦戦しているのが現状だと思います。

そのため、古い体質の企業では、いまだにSNSなどの活用に踏み切れない、もしくは、SNSの効果は不透明でも、なんとなくやっているという状況が多いと思います。

yuuu:今の話に関連するのですが、そもそもの事業会社の考える広告効果に関する考え方について伺わせてください。

sym:広告効果を真面目に測定したいと考えているクライアントサイドは、実は多くないと考えています。

2パターンあって、1パターン目が、宣伝や広告に関する部署が、売上に対する責任が無い部署である場合。
このパターンでは「広報宣伝部」などの名前のことも多いです。

長期的なブランド活動として広告活動を行っている場合も含まれますが、広告活動がすぐに効果・特に売上にあらわれなくても良いと考える会社は多いです。
そのため、短期的な数字をKPIと置かず、広告効果の測定も難しくなるために、数字を追わないわけです。

もう1パターンは、前述の私の在籍していた企業のように、実際の効果が出てしまうと自分たちの評価につながるために、現場レベルで効果測定を行いたくない場合です。
下手に成果を数値化できてしまうと、言い訳ができません。

そのため、「広告効果はすぐにわからない」「直接の相関は見づらい」などで、マーケティングに詳しくない上層部を煙に巻くということは、よく見る光景です。

yuuu:デジタルやテレビといった媒体は、広告に接触する人の反応を測定しやすいですよね。
しかし、広告効果、広告に対する反応を定量的に測定しにくい媒体について、どのようにお考えですか。

例えば、新聞や雑誌のような、閲読率のような指標は一応あるものの、効果測定しにくい媒体はどうでしょうか。
こういった媒体は、昔は出稿量が多かったのに、今では減ってきていますよね。

sym:まず、指標についてですが、基本的には閲読率などの指標を信じるしかないと考えています。

閲読率含めたリーチに関しては、そもそも部数自体も交渉の数字が信じきれないところもありますが、そこも織り込み済みで実施をしています。

媒体特性でセグメントを切れたり、深い内容を伝えることができたりするというメリットを重要視して、出稿をしていると考えています。
そのため、新聞や雑誌などの媒体への出向が減っているのは、測定の難しさでは無い理由だと私は考えています。

yuuu:どんな理由でしょうか。

sym:大きく言うと2つです。

1つは、発行部数が減少していることです。
リーチの深さを取る媒体といっても、流石に今のレベルまで減少すると、費用対効果が合わないと感じてしまいます。

もう1つは、デジタル広告の高度化によって、雑誌以外でもターゲティングをより精緻に行うことができるようになったことです。

yuuu:それでは、どんな理由でデジタルではなく雑誌や新聞に出稿しているのでしょうか。

sym:やはり、ある程度以上の年代にとっては、新聞では信頼性の高いメディアですし、ある程度のリーチも稼げるという面かと思います。

また、新聞や雑誌を読んでいるタイミングで届けたい内容、表現を活かした効果的な広告というのは今でもあると思います。

それ以外で、デジタルシフトをしていない理由としては、上層部の理解がいまだに得辛いことです。

外資だとマーケティングのことを上層部が理解していたり、マーケティングの専門家が多かったりする傾向です。
しかし日系では、そもそもマーケティングのことを何も知らない上層部が重要なポジションにつくことがよくあります。

そういった場合、「CPC?なんだそれは。コスト効率が良いと言っても、テレビの方が良い、テレビをやれば売れるだろう」のような発想がいまだに多いです。

もちろんテレビのリーチの高さは魅力ではあります。
しかし、マーケティングに理解の浅い上層部に説明するのをあきらめて、デジタルメディアへの出向を見送る例もよくあると思います。

編集後記:

外資系メーカーと大手広告代理店の現役社員による前編だ。
前編では、広告代理店と事業会社のマーケティングの違いについて対談していただいた。大手広告代理店の業態について特に理解できたのではないだろうか。
中編では、事業会社と広告代理店の間の関係性や力関係について対談していただく

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次回は後編だ。後編はこちらから。

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